「ハムの子」・・・うちのマミーと私の間だけで通じる言葉。

もう15年以上前、
私が小学校に上がるか上がらないかの頃だったと思う。
ある日の昼下がりに見たドラマである。

綺麗に研いだ包丁でハムを切る母親。
その側ではまだ小さい子供が駆け回っている。
そして今しがた切れたばかりのハムを目にし、
子供はついハムに手をだしてしまう。
その瞬間、ザクリ・・・
母親はハムではなく子供の指を切り落としてしまう。
病院に運ばれる子供の後を、
子供の指が入ったタッパーを抱え、追いかける母親。

子供だった私にはあまりにも衝撃的だったのか、
そのシーンだけは鮮明に覚えている。
そして、誰かが包丁を使う時は
その側に決して近づかないようにしていた。

時が流れ、その記憶も曖昧になっていた時、
私は偶然この本に出逢った。
中を読んでビックリ。
なんと、あの日の「ハムの子」が載っているではないか!
それは向田邦子の書いた「大根の月」という短編小説だった。
なんだか運命めいたものを感じると同時に、
とてもスッキリした気分になった。
即、うちのマミーにも報告。
その後も「ハムの子」の話題でしばし盛り上がった。
改めて読むと、
母親が指を切り落としてしまう、という単純な話ではなく
もっと奥が深いものだったんだと分かった。

それだけでない。
とにかくこの小説はすごかった。
どんな人間でも持っている心の奥底の暗い部分。
ふとした瞬間に見せるもろさや汚さ。
それをどこにでもある日常生活の中で
見事に魅せている。
自分も持っているその闇の部分を再認識し、
やはり後ろめたく思うと同時に
なんだか誰にも言えない秘密を共有したような、
そんな奇妙な嬉しさもあった。
始めて読んだ向田邦子作品がこれだったのだが、
私の愛読書の一冊に仲間入りっ♪

コメント